令和6-8年度 文部科学省 科学研究費助成事業 学術変革研究(B)

エピゲノム継承への分子・細胞スケールブリッジアプローチ

研究概要

オーバービュー

DNA構造の解明以来、約70年に渡る研究で、ゲノムDNAの複製や分配といった”DNA配列が遺伝する仕組み”が解明されました。また、ゲノムプロジェクトによりヒトゲノムの”DNA配列すべての解読”も完了しました。さらには、近年、ゲノム編集ツールキットが確立されたことにより、”DNA配列の操作”も自由に可能になりました。しかし、DNA配列だけが遺伝する情報ではありません。真核生物のゲノムDNAは、ヒストンタンパク質に巻きついて、ヌクレオソームを数珠つなぎに形成しており、それらは異なる化学修飾を保持しています。化学修飾の種類とDNAに沿った位置(エピゲノム)が、ゲノムDNAの3次元構造を決定し、その3次元構造が遺伝子発現を制御します。細胞機能の維持には、細胞分裂時にエピゲノム情報が適切に継承されることが不可欠です。

ヒストンリサイクリングの鎖バイアス

これまでの研究で、エピゲノム(ヒストンタンパク質の化学修飾)はDNA複製タンパク質複合体とヌクレオソームが衝突した際に解離したヒストンタンパク質が、複製されたDNAにリサイクルされる、ヒストンリサイクリング(図1)によって継承されることが明らかにりました。また、幹細胞の対称分裂では、複製された2本のDNAに均等に、非対称分裂(分化)では、不均等にリサイクルされる(鎖バイアス)ことも明らかになり、その分子機構解明はエピゲノムとその継承の根源的な理解につながる重要な課題となっています。

図1 ヒストンリサイクリング

図1 ヒストンリサイクリング

目的

これまでの当該分野の研究では、分子スケールと細胞スケールの研究が大きく乖離していました。そこで、本研究の目的は、学術を大きく変革し、「①リサイクリング反応の分子機構の解明、②分子機構に基づく人工染色体の再構成、③細胞と人工染色体におけるリサイクリング効率と鎖バイアスの計測・比較」を繰り返す分子・細胞スケールブリッジアプローチで、細胞と同じように振る舞う人工染色体を再構成することで、細胞内現象を説明できる、スケールを超えた統一的なヒストンリサイクルの基本原理を解明することです(図2)。

図2 分子・細胞スケールブリッジアプローチ

図2 分子・細胞スケールブリッジアプローチ

研究体制

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外部評価委員

荒木 弘之(国立遺伝学研究所・名誉教授)

胡桃坂 仁志(東京大学・教授)

高田 彰二(京都大学・教授)

大学 保一(がん研究所・プロジェクトリーダー)